AKGの新フラッグシップヘッドホン「K812」超速攻レビュー – 価格.com

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2014年1月24日、米国で開催された世界最大規模の楽器見本市「The NAMM Show 2014」で突如発表された、AKGの新しいフラッグシップヘッドホン「K812」。市場想定価格15万円前後という価格を含めて、超弩級といえるスペックに、多くの人が驚き、ポータブルオーディオファンの間ではかなりの注目株となっている。そんな「K812」だが、2月14日、早くも日本での販売がスタートした。これはもう、気にならないわけがない。日本国内販売を担当するヒビノに問い合わせたところ、運よく実機を借り受けることができたので、さっそくファーストインプレッションをお届けしよう。

「Q701」と「K712」の上をゆくモデルとして誕生

すぐにでも音質レビューを始めたいところだが、まずは「K812」の詳細なスペックから。
すでにご承知の人も多いと思うが、オーストリアのウィーンに本社を置くAKGは、マイクやヘッドホンなどの音響機器で有名なブランドだ。スタジオ向けなど、プロ用機器がメインだが、近年はヘッドホンやイヤホンなど、コンシューマー向け製品にも力を入れてきている。なかでもヘッドホンは、プロユース、コンシューマーユース問わず、「Kシリーズ」に人気が集まっていて、コンシューマー向けの「Q701」とプロ向けの「K712」が、事実上のフラッグシップとなっていた。その2つの上をゆく超弩級のフラッグシップモデルとして「K812」は誕生したのだ。 AKGいわく「最先端の音楽制作が求める極めて高い精度のモニタリングのために開発されたフラッグシップモデル」ということなので、正確には「K712」の上級モデルに位置するこの「K812」だが、「Kシリーズ」の面影を残しつつも、すべてが新しい、ハイエンドなスペックと斬新なデザインが盛り込まれている。まず、音質の要となるドライバーユニットは、新開発、かつAKGヘッドホンとして最大サイズとなる53mm口径を採用。これに複合素材の振動板、1.5T(テスラ)という強力な磁力を持つマグネット、カッパーコーティングされたアルミニウムの2層構造ボイスコイルなど、音質最優先の高品位パーツを組み合わせ、さらにダイヤフラムの中心部にエアフロー・ドーム構造を設けて空気の流れを制御。広大なダイナミックレンジと微細な信号の正確な再現、そして歪みの発生を極限まで抑え込んだ、上質なサウンドを実現しているという。これに組み合わせられるハウジングは、もちろん「Kシリーズ」ならではのオープンエアー型。当然のように、広がり感のよい、自然な音場感もアピールされている。 
 
AKGヘッドホン最大サイズとなる53mm口径のドライバー採用もちろん、「Kシリーズ」らしくオープンエアー型となっている
写真では「確かにKシリーズだな」と思える共通のアイデンティティを感じるが、実際の製品を目の前にすると、共通するパーツがひとつもなく、デザインコンセプトも大きく異なっていることに気がつく。ハウジングまわりの金属パーツやヘッドバンドとの接続部が2重リングになっているなど、デザインや機構の複雑さから「K712」などよりもずいぶんとメカニカルな印象を憶えるのだ。イメージ的には、スタジオシリーズ(K240MKIIなど)の要素も多少反映されているのかもしれない。
 
ブランドを代表するフラッグシップであり、かつプロユースを主眼としたヘッドホンだけあって、ユーザビリティーにおいてもかなりの工夫が盛り込まれている。まず、アラウンドイヤータイプのイヤーパッドには、独特の開口部や形状によって耳の裏側に接する面積を増やし、頭部側面への圧迫感を軽減しつつ音質的なアドバンテージを確保する、3Dスローリテンション技術による独特の立体構造デザインを採用。加えて、表皮には吸湿性と保湿性にすぐれた「プロテインレザー」を、その内部に低反発ウレタンを採用することで、長時間の使用時にも快適な装着感を確保しているという。
 
実際に、数時間はめっぱなしにしてみたが、装着感は悪くない。398gという重量のため、「K712」にほどの軽快さはないが、苦痛になるほどではないし、11段階に調節できる「クイックロック・アジャスト機能」によって、ホールド感もなかなか。また、ヘッドバンドにメッシュ生地が採用されているため、頭部の蒸れや圧迫感も感じなかった。
 
ケーブルは、他の現行の「Kシリーズ」と同様着脱式となるが、コネクターが異なっている。「Kシリーズ」がミニXLRなのに対して、「K812」はさらに細いLEMOコネクターを採用している。残念ながら、3極なのでバランス接続へのアップデートは不可。付属するケーブルは3mのストレートタイプで、プラグはステレオミニ端子(標準ステレオ変換アダプタも付属)となっている。素材にOFCを採用するなど、ケーブル自身の音質にもこだわった様子がうかがえる。
 
 
11段階に調節できる「クイックロック・アジャスト機能」を採用
ケーブルは着脱式。コネクターの形状は、ミニXLRではなくLOMO

音質のファーストインプレッション

さて、いよいよ肝心のサウンドを聴いていこう。届いた製品は新品だったため、約2日、50時間ほどエージングを行ってから試聴した。
 
なんという解像度感、なんという音数の多さだろう。まるで洪水のように、楽曲に収められているすべての演奏が、細部までひとつも漏らさずしっかりと再生される。ここまで音数を感じられるヘッドホンがいままでにあっただろうか。確かに、「最高のモニターヘッドホン」を目指しただけはある。アンサンブルのすばらしさを見事に表現してくれると同時に、ちょっとした失敗もあからさまにさらけ出すといったような、ありのままをストレートに表現してくれるイメージだ。
 
しかも音色が、現実の音と見まごうばかりのリアリティさを持ち合わせている。もちろん、エージングが完璧ではないので多少の帯域的な乱れは残っているし、AKGならでは、独特の音色傾向や、高域はヌケがよく低域はソリッドでフォーカス感が高いなどの傾向はこの「K812」でも感じられる。しかし、その向こうから聴こえるサウンドは、リアルな人間が、感情を込めて歌い上げている声そのもの。ボーカルの歌声がちゃんと魅力的に聴こえるし、音楽の躍動感もしっかりと伝わってくる。モニターヘッドホンであっても客観的すぎず、つまらない音にならないあたりが、AKGらしいといえる。
 
加えて、ヘッドホンとは思えない帯域バランスの自然さ、空間表現の自然さにも驚いた。もちろん、ヘッドホンなので頭内定位する特殊な音場感ではあるのだが、それを強く意識させない、自然で正確な広がり感、ステージングを表現してくれるのだ。ここまでくると、ヘッドホンというよりもモニタースピーカーを両脇において聴いているかのよう。AKGヘッドホン、なかでも「Kシリーズ」は、ヘッドホンとしてはかなり優秀な音場的広がり持ち合わせているが、それに超高解像度、超低歪み、リアル志向のサウンドキャラクターが加わることで、ヘッドホンというカテゴリーに収まらない存在となっている。「ヘッドホールドスピーカー」とでも呼びたくなる、全く新しいサウンドキャラクターだ。